69S2-XI (小二・十一月号)

バレエ星
掲載 「小学二年生」昭和44年十一月号
頁数 扉+「バレエ星のうた」のレコード案内+21p.
総コマ数 71
舞台 滝のある山中(前回の続き)/中田医院
時期 1969年秋
梗概 滝に打たれながら祈るかすみの上に大きな岩が落下、直撃は避けたものの、そのまま川に流されあわや滝壺に転落という事態に。かすみはヘリコプターに救助されるが、足を痛め、一時的に目も見えなくなってしまっていた。失望するかすみの耳に響く母の声。彼女はその声に誘われるまま、谷を越え山の森深くに歩いてゆく。
扉絵 4色/「谷ゆきこ」

あわや滝壺に落下…母の声に誘われて、かすみは山中をさまよう

これまでのお話 [0~3]


滝行②ヘリコプター救出劇 [4~36]

主人公が「川に流されヘリコプターに救出される」エピソードは、その後の『かあさん星』[71S2-VI~VIII]でも描かれる。

[11] 滝を落下するかすみ

流された先がさらに滝になっているという地形だが、このような危険な場所で滝行をする事は通常ありえない。
この一件が新聞沙汰になった場合、「無謀な野外訓練」などと、花田先生の監督不行届が世間の非難を浴びるのは必至だろう。

[13] 木の枝を掴むかすみ

ここから自衛隊ヘリの到着まで、かすみはこの木の枝にぶら下がり続けている。
彼女の必死さももちろんあるが、その後「風の課題」やアリア先生のレッスンで描かれる“身体能力の高さ”も先取りしているようにも読める。

[15] 「どうしましょう。たいへんなことになったわ!」

海水浴でボートの栓を抜いた時と異なり、自分の小さな意地悪が大事に発展してしまった事にうろたえた様子。
この滝行事件の後、かすみが病院から失踪した事で花田先生に厳しく叱責される場面があるが、ボート栓抜き事件の後でも、本編では描かれない部分で花田先生の厳しいお叱りがあったのかもしれない。

[29~36] 自衛隊ヘリ

陸上自衛隊のシコルスキーH-19が緻密に描かれている。

あざみさんの小さな意地悪が自衛隊をも巻き込む一大事に発展してしまったという、まさに“漫画的”展開。
救援費用はどうなったのだろうか、非常に気になる。

かすみの入院と失明 [37~52]

[42] 「わたしがわるかったわ。あんなところにつれて行かなけりゃよかったの」

かすみを滝行に参加させた事への後悔。この一事がその後のかすみの山中徘徊事件などに発展し、さらにかすみの母の生命にまで影響を及ぼすことになる。

[43] 「やぶ医院」

かすみの入院する病院は「中田医院」で、ここに描かれる看板はもちろん作者のお遊びにとどまる。
次作『さよなら星』と異なり、『バレエ星』で描かれる病院や医療従事者は概してまともである(先の加藤病院の看護婦のような例外はあるにしても)。

[44] 「早く元気になって、たすけてくださった人たちに、おれいをいわなくちゃ」

何よりも人を気遣う優しさは〈『星』シリーズ 〉の主人公たちに共通する長所であり、作品を掲載する学年誌の矜持でもある。


[51] 「ひるま?夜だとばかり、思っていたのに…」

主人公を襲う失明の危機は、〈『星』シリーズ 〉では本作のほか『白鳥の星』『かあさん星』の一エピソードとしてそれぞれ描かれる。

バレエ人形の夢 [53~63]




生命を吹き込む想像の力

バレエ『くるみ割り人形』を思わせる、短いながらもファンタジックな場面。
低学年誌掲載分ならではの“おとぎ話的情景”がここで展開している。

視力を失った状態だからこそ、人形に生命の息吹を与え、そのイメージの中で共に踊る事ができるーーそのような“目に見える現実の現象に囚われない想像力の飛翔”は、後年の『まりもの星』で、失明した状態のりつ子が、聞き識った伝説をもとにバレエ台本を書き上げ、現実の世界で主人公母娘の絆を回復させるエピソードにつながってゆくものといえる。

同様に、特に本作においては、目に見える現象の世界ではない「ゆめの世界」 (*1)を現実の舞台上で息を吹き込もうとする、“台本作家”としてのかすみのイメージ力を想起させる場面でもあるだろう。

[53] バレエ人形を抱きながら涙するかすみ

微笑む表情を変えることのない人形は、微笑みとはかけ離れた現実の悲惨と悲しみの渦中にあるかすみの憂い顔をさらに引き立てている。
この部分の場面までは、谷ゆき子が本作と同時期の「こどもの光」誌に短期連載した『小公女』で描かれるエミリィ人形を思い出させる。

[56] 動き出す人形

「むくむく」という擬態語の肌感覚はどこか生命の生々しさを思い起こさせる。
単に“可愛らしい人形に命が吹き込まれた”だけではなく、より肉体感覚を持った存在に変容した印象。そのような視点で以後の場面を見ると、人形の踊る姿は、生身の少女であるかすみよりも肉感的な艶めきが感じられないだろうか。


母の呼ぶ声 [64~71]


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  • 最終更新:2019-12-04 13:17:43

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