69S3-VI (小三・六月号)

白鳥の星
掲載 「小学三年生」昭和44年六月号
頁数 見開き扉+これまでのお話+16p.
総コマ数 84
舞台 白鳥家/北海道に向かう列車・及びその途中の土地
時期 1969年春〜初夏
梗概 秋山夫人が見ると、カンナは寝室の床一面に花を撒き散らし、微笑みつつ、あたかも舞台に立つバレリーナのように舞う仕草を見せていた。そして、あやめが白鳥の首を着け直すと、白鳥の置物を抱え、子供をあやすように子守唄を口ずさむ… 精神的な悩みが積もり積もってこのような事になったのでは、と判断した医師は、「静かな場所で、優しい深い愛情で包みながら一つ一つの記憶を呼び覚ま」させる事を勧める。その言葉に従い、秋山夫人はカンナを連れて北海道に旅立った。車中でもじっとしていないカンナは、目を離すとどこかに行ってしまうような状態。列車は事故でしばらく停車する。そのしばしの合間に、カンナは湖に泳ぐ白鳥を見て「白鳥が呼んでいる」と、うたた寝をしている秋山夫人を残し、ひとり列車の外に出てしまった。列車は動き出し、目を覚ました秋山夫人はカンナの不在に気づき車中を探し回る。見ると、カンナは白鳥を追って今しも湖に入っていこうとしていた。遠ざかる列車、水に沈むカンナ…
扉絵 見開き4色

錯乱するカンナは、白鳥を求めて湖に沈む…

これまでのお話

4色ページ。カンナ、秋山夫人、白鳥夫妻、あやめのほか、「おいしゃさんの家のきょうだい」が描かれている。

「カンナが、ほんとうのおかあさんだと思っている、秋山かおりさんから」

“…と思っている”という表現は、この場合あまり適切ではない印象。

カンナの錯乱 [1~39]




錯乱の美と蠱惑

オペラ、バレエなどの“狂乱の場” (*1)を彷彿とさせるシーン。カンナは『白鳥の湖』(の想像上の舞台)を演じている様子。しかし(彼女の頭の中で)展開している情景は必ずしもそればかりではなさそうで、その後湖に入水する展開を考え合わせると、このシーン全体の印象はむしろ『ハムレット』(オフィーリア狂乱の場面)を連想させる。
他の登場人物にとっては混乱の極みの修羅場だが、“錯乱する美少女カンナ”の描写に作者の流れるような筆が走り、実は本作中屈指の魅力溢れるページでもある(『谷ゆき子の世界』にその一部分が掲載されている)。

[3] 「お花のじゅうたんよ。きれいでしょう……」

部屋の床一面に花を撒き散らしたのだろうか。その上を微笑みつつ舞うように戯れるカンナの姿は、ネグリジェが前回までの長袖から裾の短い薄物の半袖に変わり、まさに狂乱のオフィーリアを思わせる。

[4] 「あっ…。音楽がなる!まくが上がるわ‼️」

カンナの脳裏に展開しているのは“ある公演の一場面”である。彼女の心の中では、バレリーナとして出番を待っている。

[5] 「さあ、ぶたいがはじまるのよ」

ここから展開するカンナの妄想の世界は“舞台上の場面”であり、彼女なりの論理は通っている。

[7] 「わたしはオデットひめ……」

よってここでのカンナの意識は“オデットその人”というよりも“オデットを踊るバレリーナ”である。意識を喪失した状態でもバレエとバレリーナへの妄執が抜けない点は、後年の『さよなら星』のすずらん (*2)と繋がるポイントでもある。

[8] 「王子さま、おねがい!私をたすけてください‼️」

カンナは“想像上の台本を演じている”。彼女が人形に見た姿は、想像上の舞台の王子を演じている相手役ダンサーだろう。

[9] 「ああ、白鳥がにげて行く…。行かないで、行かないで‼️」

ここからカンナの想像は“『白鳥の湖』の舞台”から“白鳥の舞う現実の湖”へとスライドしている様子。その後彼女が湖に白鳥を追って入水する場面を予告している。

[10] 「こわい!おねえちゃまがこわい!」

論理的思考に長けたあやめにとって、姉の(外から見れば)理解不能な行動は、“かわいそう”を通り越して恐怖の領域に入り込んでしまったようにしか見えない。それでも彼女は、その持てる論理をフル回転させて姉の狂態を止める手立てを模索する。

[31] 時間経過
この後に続くカンナの北海道転地療養の旅が「初夏」とあるため、[30~31]あるいは[31~32]の間にある程度の日数を見込むべきか。


北海道行き列車でカンナが行方不明に [40~84]

[40]「初夏の風がはだに気もちよくふくころ」
「初夏」とあり、5月から6月の初めにかけての時期に、カンナは秋山夫人に連れられて転地療養のため北海道に向かう。これまでのエピソードから推測されるように、カンナの誕生日を7月初旬とすれば、後出[52]の「十歳くらいの髪の長い女の子」という表現に説得力を与えるだろう。
[39~40]の間に時間経過を読み取るか否かは、読者の判断に委ねられる部分となる。

[40,41,43] 北海道に向かう列車

Etoile1-69S3-05-040.png
その後『バレエ星』[71S4-X : 4,8,9]にも類似する列車のシーンが描かれる(同一資料を参照か)。

[52] 「すみません。十さいくらいのかみの長い女の子を見かけませんでしたか!?」

カンナの年齢設定の目安。この北海道静養の旅を上記のように6月頃とした場合、カンナの誕生日(7月初旬)前 (*3)という事になり、本論考における仮説を裏付ける。

F1-Canna.png


  • 最終更新:2019-11-18 14:55:16

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