71S4-VII (小四・七月号)

バレエ星
掲載 「小学四年生」昭和46年七月号
頁数 扉+13p.
総コマ数 47
舞台  
時期  
梗概  
扉絵 2色・かず子の黒 (*1)とかすみの白のコントラストが生きたデザイン/「★かすみにうり二つの、白川かず子の出現に、あわてふためくバーバラ。はたして白川かず子の招待は……。」

白川かず子の行動がかすみへの疑惑を呼ぶ

これまでのお話

カットは夜、台本を執筆するかすみの姿。

森山バレエ研究所の『バレエ星』リハーサル② 白川かず子の謎とバーバラの不安 [1~12]

[4] 『バレエ星』練習場面②

[4] 「虫の音楽隊の大行進」
[5] 「ライトが消えて、曲が三拍子に変わると、中央にスポット、星の精のソロ」

[4]の場面、星の精はここではドラムメジャー役か。マーチングバンドをイメージした演出のようだが、この場面も「幼稚園のお芝居」風の印象が拭えない。バーに寄りかかり見学するかず子に気を取られ踊りに集中できないバーバラ。
[5]でもバーバラはかず子の視線のみが気になり、練習どころではない。集中力の欠けたバーバラは「気分が悪い」と言って練習を打ち切る。

写真を撮られる白川かず子 [13~18]

[13~15] かず子に声をかけ写真を撮る男

今ほどうるさく言われる事のなかった時代ではあるものの、立派な肖像権の侵害である事に変わりはない。また「彼女が春野かすみであるか否かの追跡取材」が行われているようにも見えず、この三流トップ屋風情なところが日日新聞の取材方針なのだろう。

[17] 「なぜ、わたしが森山バレエ団へ行ったことが、わかったのかしら。それを知っている人は…」

背景の逃げるようにして車に走る人影は、[13~15]でかず子に声をかけた新聞社の男だろう。
「それを知っている人」が何者かは、次回連載分で明らかになる。

[18] 看板「たにや」

料亭か旅館か、いずれにせよ作者名に由来。

鉢合わせするかず子と花田先生 [19~25]

花田先生が、街中で出会った少女がかすみの変装ではないかと疑うのも、まったく理由がないわけではない。この時点では「“かすみではないか”という問いかけに答えず逃げるように去って行った」という不自然な行動が疑惑の理由となっている。ただこの時はまだ、何のためにそのような変装をしているかはわからない。
かず子を森山バレエ団に送り込んだ“黒幕”は、さすがに花田先生と彼女が偶然に街中で出会う事は想定していなかったと思われるが、この“間の悪さ”によって、かすみに対する疑惑はさらなる隘路にはまり込む事になる。

研究所に戻った花田先生と深まる疑惑 [26~35]

ここで「かすみの外出理由が誰にも知らされていない(少なくとも花田先生には秘密にされている)」事が、花田先生のさらなる不信感を募らせることになる。

[28] 帰宅した花田先生を迎えるあざみさんとアーちゃん

この時間にかすみは不在。アーちゃんは本来あざみさんとは犬猿の仲だが、かすみのパリ滞在中の留守番生活の中で、少しずつ耐性をつけてきたものと思われる。

[29] 「さあ、出かけたようですよ。だいぶ前から見かけませんが…」

普段ならば「自分に留守番を押し付けて勝手に出かけた」などと言いかねないところを、事実のみあっさりと伝えているのがかえって不気味である。

[32] 「おねえちゃま、ちょっと出てくるけど、だれにもいっちゃいけないって」

かすみが外出理由を伝えないよう妹に言い含めているのは、アーちゃんの様子からはその言葉通りと見られる。確かにかすみは「特に花田先生には言えない理由」で外出している。ただその理由は作中で遂に明かされることはない。この小さな“背信行為”が、先の疑惑をより膨らませてゆくパン種となってしまう。

[33,35] あざみさんの薄笑い

かすみの外出と、白川かず子の出現という、一見脈絡のない個別の出来事であるが、これがあざみさんの深慮遠謀によるものと、読者はのちに知ることになる。ここではまだその予感をこれらの描写で示すのみである。

森山バレエ団潜入疑惑① 抗議に訪れる森山先生と問題の発覚 [36~47]

このシーンは、白川かず子が森山バレエ団に現れた日(また花田先生がかず子と遭遇した日)の翌日。時間は記事を載せた「日日新聞」が公に売り出されて間もない頃と考えられる(午後だろうか)。

※この場面の花田先生の激昂に至る過程、かすみの心の動きについては、以下の解釈をもとに『行間の断章』中の〈かず子を探すか、退団か〉で補足・敷衍を試みている。

[36] 「よく日、けっそうをかえた森山先生が、花田先生をたずねてきましたが……」

森山先生は、研究所に通う生徒が駅のスタンドなどで見咎めて持ってきた記事を見て、矢も盾もたまらず花田バレエ団に乗り込んだのだろう。
本来この件については、花田先生の側からの抗議なり物言いなりがはじめにあってもよいはずだが、おそらく先述の力関係から遠慮があり、森山先生側からのクレームが先となったものと考えられる。

[37] 『バレエ星』原作者の事実を知り驚愕する森山先生

ここに至る遣り取りの中では、『バレエ星』が本当に春野かすみのオリジナル作品であるかどうかの確認が、しつこいくらいになされたはずである。かすみが作者でなければ知り得ない情報がそれなりに提示されない限り、森山先生は納得しなかっただろう。
幸い花田先生の知る限りの情報のみで、森山先生は理解した模様。

[38] 「そうとも知らず、どなりこんだりして、ゆるしてくださいね」

森山先生は相当の(傍から見ても恥ずかしいような)剣幕で花田先生にまくし立てたのだろう。対する花田先生の言葉「おわびするのは、こちらの方」の意図するものは…

[39] 「かすみちゃんのしたことは、ゆるすことができません。場合によっては、やめさせます」

花田先生の非難は、なぜか台本盗用の張本人であるバーバラにではなく、この件の事実上の被害者であるかすみに向けられてしまう。ここで描かれる花田先生の激昂ぶりとかすみに対する譴責は、本作中で最も理不尽な場面と言ってもよい。

常識的に考えて、この『バレエ星』台本の一件でまず責められるべきは、台本をかすみの荷物から抜き出し、さらに自分の作品として発表しようとしたバーバラであり、その事情を知らなかったとは言え、公の舞台にかけようとした森山先生にも何かしらの対処の責任が問われるものとなる。マスコミの記事でどのように書かれようが、冷静になって考えれば、あくまでもかすみは被害者に過ぎない。

その上で、花田先生の立場を考慮するならば

「かつての自分の生徒の不始末で同業者に対する面目を再び潰され、またかすみもどういう筋からの情報かは判らずともまたぞろマスコミネタとされ、しかも前日の外出理由を自分に明かせない(これが一番の理由だろう)。そのため、あざみさんの転落事故の疑惑が晴れていないこの状況で、怒りの爆発がこの場にいない(また現在は他団所属の)バーバラよりもかすみに向けられてしまった…」

…このように考えると、花田先生的には仕方のないことではあるだろう。ただ思慮の足りなすぎる憾みは大いにあるが。

[40] 「そ… そこまでしなくても」

一方の森山先生は常識的にこの問題を捉えている。事実、その後の森山バレエ団としての措置は、公演中止および、おそらくそれに関わる各方面への謝罪期間が取られたり、当事者のバーバラの母には台本盗用の事実を伝えない配慮など、傷口をこれ以上拡げないよう慎重に進められている。おそらくバーバラの離籍も、花田先生のような指導者側からの勧告や強制ではなく、自主的な退団扱いで処理したのだろう。
この場面ではまだ、白川かず子がかすみの変装である疑惑は拭えていないにしても、かすみが原作者である以上それは「そうせざるを得ない理由」として同情の余地のある事であり、またその事自体が森山先生側に不利益を被らせているわけではないので、花田先生がそこまで厳しく処断する理由が理解できない様子。

[41] 「今さらしょうかいしなくても知っているわね」

森山先生との面識について確認している。

[42] 「はあ? いいえ」「まあ、しらじらしい」

何のことかわからず事実のまま無垢に応えるかすみの態度が、花田先生の怒りの火に油を注いでしまう。

[45] 日日新聞の記事(昭和41年6月7日付)

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美しい舞台・きたない舞台裏
春野かすみ、変装して森山バレエ団をさぐる。

ライバル、バーバラの創作バレエ『バレエ星』発表を前にして、春野かすみは、白川かず子と名のり、変装して森山バレエ団にはいり、その内容をさぐり出そうとしていたことがわかった。

「昭和41年」と見える部分が「昭和46年」の誤記であることは言うまでもない。また、この記事が発表された日付が6月7日(または9日)とすると、花田先生がかすみに退団を迫る一ヶ月後が7月初旬ということになるが、その間の服装その他の描写(特に[71S4-IX]の孤児院巡りの場面 (*2))が6月よりも7月下旬~8月中旬の盛夏の印象を与える点、そしてかすみの猪苗代での生活が7月から9月とかなりの長期となってしまう点、などを考えると、7月下旬(一般的な夏休み期間)の出来事として理解する方が自然に思える。「6月初旬」は、掲載号発売時期に合わせた便宜的な記載とみるべきだろう。 (*3)
[71S4-V : 58]で既出のように、日日新聞の論調は、もともとバーバラ側に有利に書く方針のようであるが、取材らしい取材もしないまま「白川かず子は春野かすみの変装」と断定する記事を公表するところ、報道姿勢として大いに問題がある。また文面の端々に窺えるかすみに対する悪意は、これまでの“春野かすみ報道”の流れで他社に遅れをとった恨み節がにじみ出ているようにも読めるだろうか。
見出しの「美しい舞台・きたない舞台裏」という言葉が、偶然にもかすみが[71S3-II : 26]で嘆いた言葉と符合する点は皮肉かつ不気味。かすみにしてみれば、まさかこの言葉が、選りに選って自分に向かって投げつけられるとは思ってもみなかっただろう。

[47] 昨日の外出理由を明かせず言葉に詰まるかすみ

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【重要】かすみが出掛けていた理由を花田先生に明かせなかったのは何故か
この伏線は、本編では最後まで回収されていない。
これまでの展開などから推測した当管理人の“仮説”は、『行間の断章』〈空白の一日:その日、かすみは何処に出掛けたか〉で敷衍・再話を試みている。

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  • 最終更新:2019-12-04 13:32:02

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